インタビュー企画 - 受講生に聞いてみた -
- 名前
- Jianli GUO
- 国籍
- 中国
- 東大での所属
- 先端科学技術研究センター
- 身分
- 特任研究員
- 期間
- 2016-研究生、2017-修士・博士(工学系)、2023-現職
- インタビュー言語
- 日本語
東大で研究生から博士まで。そして、ついに研究員に
今回インタビューをお願いしたのは、カクさんが、今学期とても熱心に上級のクラスに参加していたというのが一番の理由だったんですけど、声をかけたあと、東大での長い経歴を見ていて思い出しました。2017年に集中日本語コースのクラス2(初級)をとっていたんですね。
はい、そうです。日本に来たのは2016年でした。そのときは研究生で1年後に院試が控えていたので、日本語を勉強する余裕はなかったんですが、その後、2017年に修士課程に入ってから、まじめに日本語の勉強を始めようと思って受けたのが集中コースでした。
それからもう7年ぐらいですね。はじめからこんなに日本に長くいる予定だったんですか。
いいえ、そんな予定はなくて。もともとは大学で第二外国語として日本語をとっていただけです。精密工学の専攻で、この専門だったら日本かドイツかという選択肢の中で、地理的に近い日本を選びました。当時大学の授業で、日本に留学していた先生から留学についての情報をいろいろ得る機会があったのも、日本留学のいいきっかけになりました。日本に来て修士に入ってからは、就職か進学かで悩んでいたんですけど、家族の理解や先輩の影響もあってこうして研究者の道に進むことになりました。
まわりはほぼすべて日本語
日本語は、国で第二外国語としてやって、そのあと東大で1学期間集中コースでやって、そのあとはどうやって勉強してきたんですか。
ほとんど自習です。研究室が基本的に全部、専門の授業も、研究室でのコミュニケーションも、研究発表も、日本語だけだったので。
へえ、理系の研究室で全部日本語っていうのは、最近の東大だとちょっと珍しいかもしれないですね。
そうですね。研究室に留学生が私1人だったので、どうしても日本語を勉強するしかない状況だったのですが、でも、1人だったおかげで、何をするにも先生や日本人の学生と一緒。私が中華料理の店を紹介して一緒に食事に行くこともけっこうあって、みんなのムードメーカー的な存在になりました。そのあとは、JLPTの勉強をしてN1もとりましたし、最近では車の運転免許も日本語でとれました。
性格は変えられないけど、言葉はがんばればコントロールできる
で、これまではずっと自習だったのに、この学期、上級のクラスを急にたくさんとったのはどうしてですか。しかも、ほぼ皆勤でしたよね。
身分が「学生」から「研究者」に変わったからです。これからのキャリアで授業を担当する立場になるかもしれなくて、もしそうなったら、もっと高いレベルの日本語が必要だと感じました。また、先生たちと交流するのにももっと高いレベルの日本語が必要と考えて、上級クラスを受けることにしました。
カクさんの言う「高いレベルの日本語」というのは?
使う言葉を自分でコントロールできるってことかな。たとえば、こんな笑顔とかこんな性格とか、学生にやさしく見られがちなところを、教員としては捨てたいと思っても実際には捨てられません。でも、言葉の面は自分でがんばればコントロールできます。たとえば、カジュアルな言葉もフォーマルな言葉も、必要に応じてうまく使い分けられるレベルになれば、もっといい自分になれるんじゃないかなと思いました。
サバイバル感覚でコミュニケーションする楽しみ
ところで、これまで日本語で生活してきて、日本語がわかってうれしかったこと、印象に残っていることはありますか。
一番印象深いのは、「いいです」の話です。指導教員の先生がコンビニの外国人の店員さんに「袋、いりますか?」って言われて、先生が「いいです」って言ったらそれが通じなくて反対の意味にとられてしまったらしいんですけど、その話をしながら先生が、「カクさんは、そういう間違いがないね、理解がいいね」ってほめられたのがうれしくて、印象に残っています。
では、困った経験は?
やっぱり聞かれたことがわからないこと。集中していないと聞き取れないことがあるので、それは大変です。でも、日常の生活で困ることは、今はもうそんなにないです。
そうですか。
私、そもそも、知らないところに行って、自分でちょっとだけ勉強した言葉でがんばってサバイバルする感じが好きなんです。よくわからないむこうの言葉で、ちょっとだけわかる。もしわからなくても、うまく交流できなくても、わかりあおうとする、その過程が楽しいと思える性格です。ですから、「困った」と思うことはあまりないんだと思います。
相手のネイティブ言語がわかれば、もっといいコミュニケーションができる
そうですか。では、カクさんにとって、日本語の勉強って、curiosity(好奇心)とnecessity(必要性)と、どちらが大きいですか。
最初に第二外国語として勉強したときはcuriosityでしたけど、今は仕事で日本語を使うためにもっとレベルを上げるために、そのモチベーションはnecessityだと思います。
「英語が通じれば日本語はいらない」という考え方もありますけど、それについては?
たしかに、今の私の場合、大学の仕事なので、日本語はわからなくても英語がわかればそれほど問題ないです。でも、やっぱり、学生のうちは、日本語の勉強をしたほうがいいと思います。日本語がわかると生活が楽しめる。たとえば、アルバイトもできるし、日本人の友達もできるし、就職にも役に立つので。それに、基本的に外国に行ったら、その国の言語を勉強するのがいいと思います。それはどの立場であっても。人生の楽しみの1つだと思うから。
もう少し聞かせてください。
私は英語のネイティブじゃなくて、日本人も英語のネイティブじゃないというときに、英語でやりとりするとどうしても必要最小限の情報で終わってしまいます。でも、向こうのネイティブ言語、この場合は日本語ですが、日本語を使えば相手からもっとたくさんの情報がもらえます。
なるほど、それはカクさんの経験からですか。
はい。それに、これは立場を変えて考えてみてもわかることです。たとえば、自分が中国にいたとして、外国人ががんばって中国語で話しかけてきてくれたら、たくさんのことを伝えられます。でも、英語だったらそんなにたくさんのことは伝えられないし、伝えようともしないと思うので。
なるほど。よくわかりました。おもしろい話、ありがとうございました。