インタビュー企画 - 受講生に聞いてみた -
- 名前
- Michael PEVZNER
- 国籍
- フランス
- 東大での所属
- 数理科学研究科
- 身分
- 外国人客員研究員
- 期間
- 2023.9-
- インタビュー言語
- 英語
日本との出会いは25年以上も前
ミカエルさんは東大は去年からですね。日本に来た経緯を聞かせてください。
東京に共同研究者がいて、その方とはもう25年以上の付き合いです。これまで彼がフランスに来ることが何度もあったし、私が東京に来たことも何度かあったのですが、去年、フランスの研究所(CNRS)と東大の数理科学研究科との間で新しい共同プロジェクトが始まった関係で、東大に研究員として滞在することになりました。
今は、まわりはだいたい日本人ですか。
はい。ただ、よくフランスからゲストが来ます。ちょうど今週もフランスの研究者が駒場キャンパスでカンファレンスをやっているんですが、そういうことはよくあります。
ミステリアスな日本に魅了されて
それにしても、どうして日本を選んだんですか。
理由はいろいろあるのですが、まず、さっきも話したように、日本に20年以上一緒にやっている共同研究者がいて、一緒に新しいプロジェクトを立ち上げることになったため。これがofficial reasonです。
ということは、"unofficial" reasonもありますか。
はい、それは、私が長年日本に魅了されてきたことです。日本のことをもっと知りたくて、もっと長くここに滞在したいと強く思っていました。私にとって魅力的であり、同時にミステリアスでもあるからです。
え、ミステリアスって、どういうことでしょう。もう少し聞かせてください。
そうですね。今でこそ私も日本に慣れて旅行したり人とコミュニケーションすることは前ほど難しくなくなりました。でも、最初に日本に触れた30年前は、考え方もことばも、本当に違うことばかりでした。その違いに魅了されたんです。
それは、共同研究者たちとやっているうちに気づいたことですか。
いいえ、私の専門の数学の世界はユニバーサルなので、コミュニケーションの問題は基本的にありません。しかも、彼らはとてもオープンマインドですし、アメリカやヨーロッパなど海外で多くの時間を過ごしているので、両方の文化を理解しています。だから、むしろ、私が日本的な考え方やコミュニケーション方法を理解するのを助けてくれたほどです。
一方で、私は日本での経験が長くなるにつれて、だんだん文化的なルールに気づくようになりました。たとえば、人の呼び方や、コミュニケーションにおける敬意の示し方などです。また、日本では多くのことを予測して行動しますが、ヨーロッパの文化ではそういった細かい点にあまり注意を払わない傾向がある、そういった違いが重要なポイントです。
なるほど、日本に触れる中でだんだん気づいていったということですね。
はい、そのとおりです。
違いは「難しさ」であり「おもしろさ」。まるでパズルを解くよう
では、日本語の話に移りましょう。さっきの話からすると、日々の研究生活では日本語は必要ないということでしょうか。
ええ、基本的にはそうですが、毎週のセミナーのときに、スピーカーが日本語を使うことがあります。だから、簡単な日本語の構造がわかって、基本的な質問を日本語できたらいいなという思いはあります。もちろん、彼らのほうから、私がわからないことをすぐに察して、英語に切り替えてくれることがほとんどですが。
では、日本語学習についてはどんなプランを持っていますか。
実用という点からは、少なくとも初級レベルがわかるようになりたいです。それとともに、これは私の個人的な見方ですが、対照言語学的な観点から見ても、タイプのまったく異なる日本語はとても魅力的な言語だと思います。たとえば、私がいつも不思議に思ってきたことの1つは、漢字のような表意文字を含む文字体系が、人の思考や言語の概念化にどのような影響を与えるのか、ということでした。私が長年慣れ親しんできたのは表音文字なので、その認知プロセスの違いは非常に興味を惹かれます。ここまで異なる言語を学ぶのは確かに難しいですが、文法が違うことも文字体系が複雑でミステリアスなことも、その難しさがかえっておもしろくて、私の日本語学習のさらなるモチベーションにもなっています。まるでパズルを解くようなおもしろさです。
なるほど、やっぱり。私たちもクラスでミカエルさんを見ながら、まるでパズルを解くように日本語学習を楽しんでいるなと思っていたんですよ。さすが数学者ですね。日本語を学ぶときも数学的に頭を働かせているんですね。
はい、学びながらネットワークを構築していく感じです。それはとてもロジカルなことだと思っています。
立ちはだかる壁に穴があいた!
ミカエルさんにとって、日本語が上手になりたいというモチベーションは、necessity(必要性)ですか。curiosity(好奇心)ですか。
どちらもです。毎日の生活の中で、相手をリスペクトする気持ちは少なくとも必要ですし、ミステリアスなものを知りたいという好奇心もあります。
リスペクトというのは?
私がふだん会う同僚も、セミナーなどに出かけて行った先で会う人も、私がほんの一言でも日本語を使うとうれしそうにしてくれます。基本的には英語でコミュニケーションできている場合でも、たった1つの文でも、たった1つの表現でも、日本語を使うことでその気持ちが表せると思います。
そういった気持ちは、これまで時期によって変化がありましたか。
そうですね。日本語を勉強する前は、日本語は立ちはだかる壁のようなものでしたが、今は壁に穴があいて、そこから向こうが見えるようになったような感じです。それは、新しい国を発見するようなもので、私のモチベーションをさらにかきたててくれます。
リアルなヒューマンインタラクションは機械には置き換えられない
では、最後に教室で語学をやることについて聞かせてください。今はAIやアプリなどもいろいろ出てきています。毎日忙しい中、わざわざ教室に来て日本語を学ぶということについて、何か考えがありますか。
まず、AIや機械翻訳などを使いこなすことと、自分で学ぶことは、補完的だと思います。私も、メールの文章をチャットGPTに書いてもらうようなことはありますし、びっくりするような示唆を得ることもあります。でも、リアルなヒューマンインタラクションは機械には置き換えられないと思います。
授業についてはどうですか。
オンライン授業についても、実は自分が実際に受けてみて考えが変わりました。
コロナ禍が始まったころ、数学の研究者同士で、Zoomでは対面に比べて分かりあえない、というような話をしていたのです。特に数学の場合は広い黒板も必要なので。
でも、実際に自分がZoomの日本語クラスに出てみると、やりとりはスムーズで、人と人とのコミュニケーションがそこにしっかりありました。グループでの練習もうまくできて、オンライン授業でも遜色ないと思いました。
それに、クラスには研究科や出身の異なる学生たちがいます。同じフランス出身でも、他の専門の、他の世代の学生たちに会えて、とてもおもしろい体験をしています。以前と変わらないヒューマンインタラクションがそこにあると感じています。
そうですか。いいお話を伺えました。これからも日本語学習を続けますか。
はい。今は機械翻訳に頼っていますが、そういうものに頼らない independent userになるのが目標です。