インタビュー企画 - 受講生に聞いてみた -

名前
Bea LEE
国籍
フィリピン
東大での所属
大学院情報学環・学際情報学府
身分
博士課程
期間
2021.4-修士課程 (コロナ禍の渡航制限のため、渡日は2022)、2023.4ー博士課程
インタビュー言語
日本語

初めての来日がこの留学

Q

東大に留学した経緯を聞かせてください。

A

10歳ごろから日本のアニメが好きだったんですけど、その後、高校生のころにアイドルにも興味を持つようになって、大学でも2年間、日本語の授業を取っていました。先輩の一人が、東大の今の私と同じプログラムに留学していて、「ここだったら英語のプログラムだから、そんなに日本語ができなくても大丈夫」と言ってくれたので、留学を決めました。子どものころから日本好きでしたが、実はそれまで日本に来たことはなくて、初めての日本がこの留学でした。

外国語を使うことの楽しさと難しさ

Q

来てみてどうでしたか。

A

空港ではなんとかなったんですけど、初日から、日本語がわからないと実感させられることばかりでした。日本語を国で2年やったとはいえ、当時はシャイだったし、話せることばは「いただきます」ぐらいだったんです。その翌日から区役所や銀行などの手続きはチューターさんが付き添ってくれたんですが、銀行で口座を開くときは、自分でカタカナで名前を書くように言われて。そのころは集中してやっと書けるぐらいのレベルだったんですけど、やっと「ベヤ」と書いたら、「ヤ」が「カ」に見えると言われて、またもう一度新しい書類に書き直しをさせられたり…大変だったことを覚えています。コンビニでもどこでも、1つ1つ経験しながらでした。

Q

それが2019年のことですね。その年に集中コースのクラス2(初級後期)とクラス3(中級前期)を2期続けて取って、そのあとは特に日本語コースはとらずにここまで来たんですよね。ときどきセンターのアルバイトで会って話したりもしていましたが、今回久しぶりに話してみてさらに上達したなとびっくりしているんですが、この4年ぐらい、どんなことをしてきたんですか。

A

学内のLanguage Exchange Programにも参加しましたし、スマホの言語交換のアプリを使って文を添削しあったり質問しあったりする中で、実際に会ってみようとなって、知り合いができたこともありました。あと、学外の教育機関で英語を勉強している学生たちを相手に英語で話すアルバイトをしているんですけど、そんなに英語が得意でない相手だと結局日本語で話すことが多くなるので、そのおかげで案外楽しく日本語も話せています。みんな若いから、私がお姉ちゃんみたいになって。
そのほか、いくつか本も使っています。たとえば「ことばさがしパズル」です。ほかの人と話しながら「言葉教えて」って言っても、たぶん私が知らない言葉は相手は知らないから出てこないので、こんなのでやるのがいいかなと思いました。
あともう1冊、Short Storiesの本ですが、これは、パズルのことばだけだと文章にならないし、コンテキストもないし、何か、私のレベルに合う話を読んでみたいなと思って選びました。

学習ノート
Q

へえ、そうやって、いろいろ工夫してきたんですね。さすが!

A

ありがとうございます。あとは…日本人と付き合った経験もあって。日本語の上達には大きかったです。もう別れたんですけど。

Q

じゃ、それはあんまり聞かないことにしましょうか(笑)

A

いえ、大丈夫です。もう過去のことなので(笑)
いいこともあったんですよ。けんかのときもお互いがんばって理解してあげるという感じでした。やっぱりネイティブじゃないので、「このことばで合ってるかな?」って考えたり、相手が話してくれるときも「こういう意味かな?」って考えながらやりとりして。つまり、少しぐらいわからないことがあっても文脈の手がかりを使ってそのギャップを埋めることができたし、深い話になっても、相手が言おうとしていることを本当に理解しているかを考えながらやりとりしていたんです。
でも、結局、それが別れた理由にもなったんですけど、彼は「ベヤは日本語が上手だからこそ、わかってくれてるって期待しちゃうんだよ」って。でも、私が言いたかったことは、「言語と文化は全然違うから」「私が日本語が話せると言っても、日本の文化とか日本人の考え方が本当に理解できているわけじゃないから」って。でも、向こうは「日本語めっちゃ上手じゃん」ってなって、終わってしまいました。

Q

そうだったんですか。

Local Friendsを作りたい

Q

ところで、ベヤさんにとって、日本語学習のモチベーションって何ですか。curiosity(好奇心)とnecessity(必要性)と、どっちが大きいですか。

A

今のところはやっぱりcuriosityが一番と思います。necessityについては、今はほとんど困らない状態になったので。何かわからなくても聞けるようになったし、返ってきたことばもだいたいわかるし、もしわからなくてももう1回聞けばいいし。

Q

じゃ、そのモチベーションっていうのは、やっぱりこの5年の間に変化がありましたか。

A

そうですね。最初は necessityでした。生活のため。でも、もうサバイバルできたので、友だちを作りたいという気持ちがあります。
あと、私は留学生の友だちのほうが多いんですけど、長年日本にいるうちにだんだん気づいたのは、みんな結局、国に帰ったり、どこかに行っちゃうってことです。それは私はちょっとさびしいので、もうちょっとLocal Friendsを作りたいなって思ったんです。たとえば、クラス3のときのLさんとは今もSNSで話してるんですけど。コロナのせいで急に帰国していったときは、すごくさびしくてめっちゃ泣いちゃいました。そのあと自分と同国のRさんも帰っちゃって。なんか、ここで仲良くなってもいなくなっちゃうんだなって思って。だから、ここに住んでる友だちを作りたいなという気持ちです。

Q

ああ、なるほど。

それぞれの学習方法にそれぞれの役割

Q

じゃ、最後に1ついいですか。ベヤさんみたいに自分でどんどん日本語が上手になれるってことは、もう日本語コースはいらないんじゃないかって思ってしまうんですけど、どうですか。

A

それはないです。日本語のfoundation(基盤)をつくるのに、system(体系)を知るのにコースの勉強は大切だったと思います。もしそれがなかったら、たとえば、ただアイドルグループのトーク番組を見ていただけだったら、今、自分から日本語で何か話したり意見を言ったりすることはできなかったと思います。アプリや友だちとは全然違うfunction(機能)があると思います。

Q

ちなみに、生成AIとかはどうですか。

A

それも全然違いますよね。生成AIについては、それをトピックにした専門の授業を受けたこともあるし、個人的に日本語の勉強のために使ったこともあるんですけど、やっぱり人と相談するのが一番勉強になるなと思います。その後ろにいろいろな情報もついてくるし、もっとコンテクストもわかるようになります。

Q

なるほど。やっぱり、人とやるってことに意味があるってことですね。

A

はい。

安田講堂前
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